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鉄筋コンクリートとは:
  鉄筋コンクリートの特徴と構造
  @コンクリート構造物の種類と特徴
  A鉄筋コンクリートの特徴
  Bコンクリート構造物の3要素

A鉄筋コンクリートの特徴

・コンクリートと鉄筋の役割と複合性

 鉄筋コンクリートは、構成材料である鉄筋とコンクリートの長所を活かし、欠点を補完し合う優れた複合材料であるといえる。コンクリートの特徴としてまず挙げられるのは高圧縮強度・低引張強度に準脆性材料であることで、単一で機能することは少ない。一方、鉄筋棒鋼は比較的高強度の延性材料であるが、それのみで部材を形成することは必ずしも得策でなく、座屈や腐食の心配がある。そこで鉄筋コンクリートの登場となるが、これは鋼材(鉄筋棒鋼)+コンクリートの共同体であるが、両者の単なる重ね合せではなく、それ以上の相乗効果を発揮することを強調したい。これはコンクリートの立場からみれば@圧縮域における靱性と強度の改善、A引張脆性破壊の防止とひび割れ制御であり、鋼材から見ればB棒状鉄筋の座屈回避、C腐食防止などが主なものとして挙げられる。
 @については、閉合した鉄筋からの拘束によって、コンクリートに急激な破壊を防ぎ、曲げ部材の圧縮域や柱では重要な特徴である。Aでは、曲げ引張域やせん断ゾーンなどで過大な引張主応力が生じると間違い無く引張ひび割れ(引張破壊)が先行するが、鉄筋がコンクリートの引張力を肩代わりすると同時にその開口幅を制御している。すなわち鉄筋の配置によって、ひび割れ発生そのものを防ぐことはできないが、発生後の開口増幅を抑えている。ひび割れ幅制御は機能保持(使用限界状態)の立場からの設計要件であり、他の要件に先行してクリティカルとなることが少なくない。
 BとCは、鉄筋コンクリート部材の耐力・耐久に立場から極めて重要であるが、震災に見られる柱主筋のはらみ出し、あるいは過度なひび割れや海砂の使用による鉄筋発錆は、残念ながらその効果が発揮し得なかった例である。
 このような異種材料の組合せと母材のひび割れ許容は、コンクリート系部材が他の材料と区別されるidentityであり、経済的に優れた部材形式として長く多用されてきた由縁でもある。このようなコンクリート構造の特徴を列挙し整理すると、図4のようにまとめられよう。
鉄筋コンクリートの特徴を、例えば鋼構造と比較してみると、次のことがいえるであろう。鉄筋コンクリートは、破壊力学が対象とするひび割れ先端からの脆性破壊、あるいは鋼部材では必ず問題となる座屈崩壊についてはほとんど触れずにすんだというありがたい利点を享受してきた
が、一方では、複合性に起因する解析モデル構築の困難さや構造細目と施工管理に複雑さなどが負荷としてのしかかっている。

@ コンクリート材料の特徴 ⇒ 高圧縮強度・低引張強度(10:1)
脆性材料・複合材料(骨材+セメントペースト)
A 鉄筋とコンクリートの複合性 ⇒ コンクリートの引張脆性破壊の防止


→ひび割れ制御
鉄筋の拘束(confinement)による圧縮挙動の改善
→柱、梁の靭性確保
鉄筋とコンクリートの応力伝達
→ひび割れの許容、付着メカニズム
B鉄筋とコンクリートの類似性・異種性
類似性 ・化学的に互いに反応しない ← 化学的安定
・熱膨張がほぼ等しい ← 温度変化に対する安定性
・限界ひずみ能がほぼ等しい ← 塑性挙動
(ただし、コンクリートの引張ひずみは除く)
異種性 ・強度・剛性が異なる(とくに引張強度は100〜200倍異なる)
・時間依存性(クリープ、乾燥収縮)が異なる


・ 製作、施工法が異なる
┌ 鉄筋 → 工場製品+現場加工品・組立
└ コンクリート → 材料(生コン)購入+現場打設・養生
図−1 コンクリートと鉄筋の特徴および複合性

  また、これを設計上の立場から考えれば、鉄筋コンクリート構造は次のような特徴をもつ。第一に、変形・ひび割れ照査(使用限界状態)と断面耐力算定(終局限界状態)では異なる立場をとること。すなわち、耐力算定ではコンクリートnon-tension材料として取り扱い、変形・ひび割れの計算では残存引張応力を直接的もしくは間接的に考慮する必要がある。第二に、終局限界状における耐荷力算定では、破壊モードが単一ではなく複数(通例、鉄筋降伏およびコンクリート圧壊)存在する。このような事実は他の材料系ではあまり見られない特性であり、本書執筆の際
にはとくに留意したつもりである。

・鉄筋コンクリートの成立条件と長所・短所
 以上のような、鉄筋とコンクリートの良好な複合性を維持し、本来の機能・耐荷性を発揮するには、次のことが前提条件となっている。
@ コンクリートと鉄筋との間の付着が十分で、ひび割れ後も両者がほぼ一体となって変形すること。このため、現在では異形鉄筋の使用が前提となっている。
A コンクリートと鉄筋に熱膨張係数がだいたい同じであること。これは温度変化によって両者の間に温度応力が生じないようにするためである(2章に計算例を示してある)。
B コンクリート中に埋め込まれた鉄筋が腐食しないことが前提条件となるが、コンクリートが弱アルカリ性のため通例確保される。ただし、過度なひび割れ開口や塩分環境下では必ずし も十分でなく、設計・施工上の配慮(例えば、配合や鉄筋にかぶりなど)が必要である。
上述にような特徴を有する鉄筋コンクリートは、他の構造材料にない優れた長所をもつ反面いくつかの欠点もある。これをまとめると、次のように要約することができる。
<長所>
@ 耐久性、耐火性、耐候性に優れ、維持・管理も比較的手間がかからない。設計・施工が十分であれば、基本的にはメンテナンスフリーに近い。
A 形状・寸法を比較的自由に選択することができ、その質感とも併せ、土木・建築構造物に適している。
B 材料の入手が比較的容易であり、トータルに建設費は他の材料を併用した場合に比べて安価となることが多い。
<短所>
@ コンクリートが低引張強度であること、および乾燥下で収縮することにより、ひび割れを生じやすい(ひび割れの発生そのものは耐荷力には影響を与えないが、鉄筋腐食、水密性、美観の立場から配慮が必要である)。
A 圧縮強度についても、単位重量当りの強度を見ると鋼材より劣る。例えば、コンクリートの単 位重量は鋼材にそれの30%程度あるが、圧縮強度は鋼材の降伏強度の10%前後である。したが って自重が大きくなり、例えば長スパンの橋梁では構造設計上不利になることが多い。
B 構造物に建設に際しては、型枠・支保工の準備が必要であり、また打設後の養生もコンクリート
構造物特有に工程である。このため施工管理、品質管理などの管理項目は多くなる。

・鉄筋コンクリートのひび割れ
 さて、鉄筋コンクリートの特質を論じる際、“ひび割れ”ということが数多く出てくることに気がつくが、ここでその考え方と視点を再度確認したい。
 鉄筋コンクリートにおけるひび割れは、それを許容することにより経済的となる反面、過度なひび割れは部材に劣化を助長するとともに美観が損なわれる。構造実験に際して、ひび割れの発生は応力の流れを可視化することになり、破壊形式を推定することができ、主要な手掛りとなり役立つ。
また、ひとたび既存構造物に発生すれば、その発生原因を探り[8] 、機能性や耐久性をチェックしなければならない。言い換えると、ひび割れは鉄筋コンクリートにとって利害得失両面をもつ切っても切れないものであり、鉄筋コンクリートを学習する際の重要なキーポイントになっているということである。
 コンクリート構造物は曲げモーメント、せん断力により構造ひび割れが生じる。その発生原因となっている内部の応力については、4章以降関連する章で詳述されるが、簡単に言うといずれも引張主応力によって生じ、その直交方向に展開している。
 ここで大切なことは、力学的にはこれらにひび割れが予想されるパターンで“健全に発生し”、埋設された鉄筋が本来の役目を果たしていることが観察されるということである。さらに、耐久性の立場からは、ひび割れの本数や長さよりもその開口幅が問題となることである。
 また、現行に限界状態設計法の立場から見ると、図中のコンクリート構造物がひび割れによって使用性や機能性が損なわれていないか(使用限界の照査)、この荷重が多数繰り替えされたとき疲労破壊しないか(疲労限界の照査)、この荷重が増えるといつ最大耐力に達するか(終局限界の照査)ということが設計照査のチェックポイントとなる。

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